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放牧活用型畜産に関する情報交換会2014 | 放牧における家畜の衛生管理

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基調講演

放牧における家畜の衛生管理

農研機構 動物衛⽣研究所 細菌・寄⽣⾍研究領域 寺⽥ 裕 現在、公共牧場では草地管理や放牧管理上抱える問題点も多く、その内容も多様です。 放牧衛生に関してはマダニが媒介する小型ピロプラズマ病など特有の疾病がみられ、発 育、繁殖への悪影響から放牧における生産性を低下させています。小型ピロプラズマ病 は近年、感染頭数、発病頭数、死亡頭数ともに減少傾向にありますが、専用治療薬のパ マキンが入手できないこと、殺ダニ剤投与回数の減少等から牛体に寄生するマダニ数や 本病の発症牛が再び増加している牧場もあること、そして有効なワクチンがないことな どから、今後も衛生検査等を通じて監視を継続する必要があります。 また、最近では牛白血病の増加が大きな問題となっています。近年の発生頭数を見て みると年々増加傾向にあり、平成 25 年度は全国 2310 頭の発生が報告されています。15 年前の平成 10 年の 96 頭と比べると発生頭数は約 24 倍となっており、抗体陽性牛の増加 も考えると、早急な対策が求められます。本病の感染経路は多様ですが、放牧において はアブなどの吸血性の家畜害虫による病原体の伝播、感染拡大が心配されています。 本日は放牧衛生の意義やその役割について、また、放牧衛生上重要な小型ピロプラズ マ病や牛白血病の感染について、現場の実態や対応策を最近の調査・研究結果を交えな がら紹介したいと思います。

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【はじめに】

☆放牧衛生では病原体のみならず放牧環境にまで十分に配慮し、入牧から退牧までを 通して放牧牛の健康と生産を総合的に支えることが大切です。

【放牧衛生の基本事項】

☆衛生管理では「予防」と、毎日の観察や定期的な衛生検査による「早期発見・早期 治療」が基本です。 ☆牛の異常は毎日の看視、定期的な衛生検査によって早期に発見し、早期治療へとつ なげます。

【疾病の予防】

☆放牧場では病原体を「持ち込まない、増やさない、持ち出さない」の3点が重要 です。 1.下痢、肺炎、皮膚真菌症などの感染牛は入牧させない。 2.牛白血病については、感染牛(抗体陽性牛)は放牧をしないで放牧場の陰性化 を図るか、やむを得ず放牧する場合は非感染牛と群分けを行った上で牧区を別 にして行う。 3.入牧前のワクチン接種。 4.入場時には車両消毒、放牧場関係者以外の入場を制限、長靴や作業着の専用化 と消毒の徹底。 5.病原体の増殖・蔓延を防ぐため、異常牛の早期発見、隔離・治療。定期的な駆 「放牧衛生」 入牧から退牧までを通して、様々なリスクから 放牧牛の健康と生産を守ることが重要

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6.退牧時にも駆虫薬や殺虫剤を使用し、放牧場から病原体や害虫を持ち帰らない よう注意する。

【入牧前の衛生管理】

☆放牧中の病気の発生を抑えるため予防接種は有効です。 ワクチンの選択は、放牧場での過去の発生状況や地域での流行状況を考慮します。 不明な点は獣医師または家畜保健衛生所に相談するとよいでしょう。 ☆放牧馴致を入念に行いスムーズに放牧に移行させることは衛生管理の面からも重要 です。

【放牧中の衛生管理】

☆放牧中の衛生管理は、毎日の看視と定期的な衛生検査による病牛や異常牛 の早期発見・早期治療が中心です。 ☆異常牛発見のポイント。 キーワードは「いつもと異なる」「他の個体と異なる」。 例えば、朝夕の採食時間帯に採食をしないで牛群から離れて佇立、休息している場 合には何らかの異常がある可能性があります。 腹部の凹みや異常な膨隆などの体型異常、目の輝きの低下など表情の異常、鼻鏡の 乾燥、被毛の粗剛(ボサボサ)・脱毛、皮膚の異常、跛行などの歩行異常、目やに や鼻汁、咳、尻・尾付近の下痢便による汚れ・脱毛などは異常牛の重要なサインで す。 ☆異常が見つかったときの対応は臨機応変に!重症の場合は移動させないで、症状が 落ち着くまで現場で処置・治療。母子放牧では子牛がケガや病気で収容や退牧が必 要な場合には、母牛も一緒に収容・退牧させます。 ☆外部、内部寄生虫の定期的な対策を行います。 下痢などの症状を示していなくても放牧牛は消化管内線虫寄生による潜 在的な被害を受けており、駆虫によって増体率向上などの経済効果があることが数 多く報告されています。

【退牧時の衛生管理】

☆退牧時には病原体やマダニなどの媒介動物を農家に持ち帰らないようにします。ま た、青草中心の放牧から、乾草、配合飼料中心の舎飼いへの飼料環境変化に注意しま しょう。

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【放牧牛の重要疾病】

1)感染性の疾病

☆感染性の疾病は牛群内ですみやかに伝播・蔓延し、病状が進んでから発見されるこ とも多くあります。代表的な放牧病には以下のものがあります。対策としては、ワ クチンの投与、外部寄生虫駆除、消化管内寄生虫駆除、毎日の看視や定期的な衛生 検査による異常の早期発見、隔離、早期治療が重要です。 小型ピロプラズマ病 (原因)小型ピロプラズマ原虫(図1)マダニ、アブ、シラミによって媒介。 (症状・特徴)発熱と貧血。病状が進むと元気・食欲の減退、発育不良を示し、重症の 場合は死亡。初放牧牛において多発。入牧後1ヶ月頃に発生する傾向。 (対策)早期発見と治療(抗原虫剤)、マダニ駆除。 呼吸器病 (肺炎や気管支炎) (原因)ウイルス、細菌、寄生虫 (症状・特徴)発熱、咳、膿様鼻汁(図2)、目やに、元気・食欲の減退 入牧直後に多発する傾向。若齢牛ほど発病率や重症例が多い。短時間で牛群全体 に広がる場合もみられる。 (対策)早期発見と隔離、治療(抗生物質など)。ワクチン、定期的な駆虫 薬の 投与。 消化器病(感染性) (下痢) (原因)ウイルス、細菌、寄生虫 (症状・特徴)軟泥状から水様まで様々な形態の下痢(図3)。 元気消失、食欲不振、脱水など。子牛では急な脱水に注意。 (対策)早期発見と隔離、治療(抗生物質、化学抗菌剤など)。ワクチン、定期的な駆 虫薬の投与。脱水対策が重要。 皮膚病 (皮膚真菌症と牛乳頭腫症(パピローマ)) (原因)皮膚真菌症は真菌(カビ)、牛乳頭腫症はウイルス (症状と特徴)皮膚真菌症は顔面、頸部などに脱毛、皮膚の隆起、多量のフケなど(図 4)。本病はヒトにも感染するので直接患部に触れない。牛乳頭腫症は顔面、乳頭 や全身に発生する(図5)。 (対策) 早期発見と隔離、治療。牛乳頭腫症では回復まで時間がかかることが多い。

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眼病 (伝染性角結膜炎(通称ピンクアイ)) (原因)細菌 (症状・特徴)涙、結膜の充血。角膜の白斑。夏期に集団で発生。 (対策)早期発見と隔離、治療(抗生物質)。発生にはハエが関与していることか ら、予防にはハエ駆除が有効。 蹄病 (趾間腐爛、蹄底潰瘍) (原因)小石などの異物による外傷からの細菌感染 (症状と特徴)跛行。患部は蹄のマタの部分や蹄の裏の部分であり、化膿が主で潰瘍 を作っていることも多い。 (対策) 早期発見と治療。放牧場内の木の切り株や鋭利な岩石、バラ線破片などの金 属異物の除去。給水場周辺のぬかるみの防止。 牛白血病 (原因)成牛型は牛白血病ウイルスの感染、散発型は原因不明。牛白血病ウイルス はアブによる伝搬、注射器や直腸検査手袋の連続使用によっても感染し、母子間 では胎盤、産道、母乳を介しても感染。 (症状と特徴)体表リンパ節の腫大、削痩、貧血、元気沈衰、眼球突出。 家畜の監視伝染病の中で「届出伝染病」に指定されており、現在感染牛、発症牛 ともに増加傾向。 (対策)発症した場合、治療法はなく淘汰。感染牛(抗体陽性牛)は牛群内での感染源 となるため淘汰の順位を高める。放牧では入牧前および放牧中に検査を行い、感 染牛を放牧しないことにより牧場の清浄性を保つ。やむを得ず感染牛を放牧する 場合は、感染牛と非感染牛を別群として放牧する。吸血昆虫の駆除、人為的媒介 を避けるため注射器、採血器具、直腸検査用手袋、除角・去勢器具は1頭毎に使 い捨てまたは十分に消毒したものを用いる。感染牛から生まれた子牛には非感染 牛の初乳を保存しておいて飲ませる。 異常産 (アカバネ病など) (原因)ウイルス(アカバネウイルス、チュウザンウイルスなど)ヌカカやカによ って媒介。 (症状と特徴)母牛は感染しても症状は示さないが、胎児に異常をきたす。早産、流 産、死産、体型異常、中枢神経系病変、虚弱などの異常。 (対策)ヌカカやカ対策。殺虫剤や忌避剤の使用。ワクチン。

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2)非感染性の疾病

☆放牧では感染性の疾病以外にも以下の疾病がみられます。これらを防ぐためには、 放牧馴致を行って飼料や環境の急変を避け、給水施設や避陰林、避難舎などの環境 整備を行い、良好な草地管理を継続することが重要です。 消化器病(非感染性) (下痢や軟便、食滞、急性鼓脹症) (原因)飼料や環境の変化 (症状と特徴)下痢の症状や特徴は感染性の消化器病を参照。急性鼓脹症では左側の上 腹部が大きく膨隆。呼吸困難で短時間に死亡することがある。 (対策)飼料や環境の急変を避ける。急性鼓脹症にはマメ科牧草の摂食制限、とくに成 長期のマメ科牧草には注意。放牧地内のビニール片やロープ端、金属片など異物の 除去。 グラステタニー(低マグネシウム血症) (原因)血液中のマグネシウムが低下。マグネシウム含量の少ない牧草を摂食した 牛で多発。 (症状と特徴)興奮、突然の四肢のけいれん。短時間で死亡することが多い。発生は 低温の続く春の入牧時や転牧時に多い。 (対策)マグネシウム剤の投与。草地に対する適切な施肥管理(マグネシウムを施し、 カリウムを控える)によりミネラルバランスのとれた草を生産することにより予 防。 中毒 (有毒植物による) (原因)ワラビ、ソテツ、ドクゼリ、ウマノアシガタ、シキミ、レンゲツツジ、キョ ウチクトウなどの有毒植物の採食。 (症状と特徴)植物に含まれる毒物によって症状は異なるが、ワラビ中毒では白血球数 や血小板の減少により貧血、血液凝固不全、可視粘膜の出血、血便、血尿など。 (対策)草地内の巡視し、毒草除去。家畜の有毒植物中毒についての情報は、以下の 動物衛生研究所のホームページ参照。 (http://niah.naro.affrc.go.jp/disease/poisoning/plants/index.html) 日・熱射病および寒冷ストレス (原因)強い直射日光、高気温、高湿度。また、入牧後の「寒の戻り」や「春の嵐」 による異常低温。

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の中枢神経障害。寒冷ストレスでは震え、体温低下。 (対策)日・熱射病は放牧地内に避陰林や避陰舎を配置。給水設備を整備、点検。寒冷 ストレスは放牧地内への避難舎の配置や一時的な畜舎収容。 図1 赤血球に寄生する小型ピロプラズマ原虫 図2 膿様鼻汁を出す牛 図3 水様性の下痢 図4 顔面の皮膚真菌症 図5 乳頭にみられた牛乳頭腫症

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【放牧牛の害虫対策】

☆放牧で問題となる家畜害虫には以下に示すものがありますが、これらは吸血加害 のほか、ウイルスや寄生虫などの病原体を媒介することから放牧衛生上重要です。 防除は殺虫剤の利用が中心で、継続的な使用が必要です。 アブ (特徴)わが国のアブは約 100 種。雌のみが吸血(図6)。吸血量はアカウシアブなどの 大型種では約 500mg。牛白血病ウイルス、小型ピロプラズマ原虫などの病原体を媒 介。 (対策)殺虫剤やトラップ。殺虫剤は効果の持続期間が数日程度と短いものが 多い。トラップによる捕獲は放牧場内のアブ密度を減らす上で有効。設置場所によ って捕獲数が大きく異なることから、放牧場内の見通しのよい場所に設置すること が重要で、多数設置した方が効果が高い。 サシバエ、ノサシバエ (特徴)サシバエは晩夏から秋、ノサシバエは盛夏に多く発生し、雌雄ともに吸血。寄 生する個体数が多く、刺咬によるストレスや失血量も大きいことから世界的に最も 被害を及ぼす家畜害虫と考えられている。サシバエは吸血時のみ牛体に寄生、ノサ シバエは吸血にかかわらず牛体に寄生する習性がある。 (対策)サシバエは堆肥場を発生源とすることから堆肥の適切な処理や堆肥に対する薬 剤散布、ノサシバエは放牧地の牛糞を発生源とすることから牛体への薬剤使用が有効。 ブユ (特徴)夏季の主に朝夕に吸血活動を行い、雌のみが吸血。吸血による刺激や痒みはカ 以上で、刺咬による傷は丘疹や水疱を起こす。近年、牛乳頭腫症を起こすウイルス の媒介が疑われている。 (対策)成虫は水面下にある植物や石などに産卵し、幼虫は清澄な流水中に生息するた め、幼虫の発生水域への殺虫剤散布が効果的であるが、現在は行われておらず有効な 方法はない。 カ、ヌカカ (特徴)カ、ヌカカともに雌のみが吸血。ヌカカはきわめて小さな昆虫で淡水の湿地や 水田が発生源となる。カは日本脳炎の媒介者として有名であるが、牛では異常産を 起こすアカバネウイルスや指状糸状虫を媒介。ヌカカはわが国でのアカバネウイル

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(対策)牛体への薬剤使用が有効。 シラミ (特徴)シラミは若虫、成虫ともに吸血しなければ発育が出来ず、雌雄ともに吸血。シ ラミは種によって決まった宿主にのみ寄生し、激しい痒みを引き起こす。小型ピロ プラズマ原虫の機械的な媒介者である。 (対策)牛体への薬剤使用が有効。 マダニ (特徴)わが国で放牧牛が吸血されるマダニとしてマダニ属、チマダニ属の2属が広く 認められている。チマダニ属のフタトゲチマダニは小型ピロプラズマ原虫の主要媒 介者として放牧衛生上重要。フタトゲチマダニは幼ダニ、若ダニ、成ダニの3つの発 育時期を持ち、それぞれの時期で宿主をかえて吸血する(図7、8)。 (対策)殺ダニ剤の牛体への継続的な使用が重要。放牧期間を通して計画的に行うこと が望ましい。プアオン法やイヤータッグによる薬剤使用が有効であり、現在主流と なっている。 図6 牛の脚で吸血するアブ 図8 草に登り宿主を待つマダニ 図7 外陰部周辺で吸血するマダニ

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【衛生管理と施設】

☆放牧地内に避陰林や避難施設、給水場、固形塩設置台、子牛用補助飼料給与施設、 定期的な衛生検査のための追い込み柵、誘導柵、検診柵、保定枠場などを設置しま す。また、病気やケガをした牛を一時的に収容する保護施設や病畜舎があると便利 です。 ☆近年、放牧地へのシカやイノシシなどの野生動物の侵入が問題となっています。 シカは牧草を採食するだけでなく、シカの侵入の多い牧場ではマダニ生息密度が 高まることから放牧衛生上重要な野生動物と考えられます。フェンスなどを利用 して侵入を防止することが重要です。 図9 近年、放牧場へのシカの侵入が増加している

参照

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